飲食・小売の多店舗経営──社長の現場業務を本部機能に移す

この記事の要点

  • 多店舗経営の社長が忙しいのは、店舗の数だけ「社長が店長を兼ねる仕事」が増えるからです
  • 打ち手は、店舗業務と本部業務を分け、数字・採用・会議・マニュアルを本部に集めることです
  • 店長会議は、同じ形式の数字と、担当と期限つきの決定事項で回します
  • 本部を作っても社長がそこに入り続けると、忙しさは変わりません

2店舗目、3店舗目と広げてきた飲食店や小売店で、社長の一日が「店から店へ移動して、穴を埋める」ことで終わっている。採用の面接も、シフトの調整も、仕入れの判断も、月末の数字の確認も、全部が社長の携帯に集まる。店が増えるほど自由になるはずだったのに、逆に現場から離れられない。多店舗経営の社長からよく聞く話です。

多店舗経営における「本部機能」とは、各店舗に共通する仕事──数字の集計、採用の窓口、店長会議の運営、マニュアルの整備、販促、行政手続き──を店から切り離し、一か所で担う役割のことです。人数の多い本部を作る話ではなく、社長の頭と携帯に集まっている仕事を、店舗の外に置く考え方です。

この記事では、社長が全店の店長になる構造、店舗業務と本部業務の分け方、本部機能を切り出す手順、店長会議の型、うまくいかないパターン、チェックリストを整理します。外部COO(COO代行・社外COOとも呼ばれます)の役割は「外部COO(COO代行)とは」に書いています。実店舗ではなくネットショップやモールで売る場合は「EC・通販の受注と問い合わせ対応」に書いています。

社長が「全店の店長」になる構造

結論から言うと、多店舗経営で社長が現場から離れられないのは、努力の問題ではなく、店舗の数だけ「店長の上の判断」が増える構造の問題です。1店舗なら、社長が店長を兼ねていても回ります。2店舗、3店舗になると、各店の店長から「人が足りない」「この仕入れでいいか」「クレームが来た」が上がり、それぞれに社長が答える形になります。

背景には人手の問題があります。中小企業庁の2025年版中小企業白書 第1部第1章第3節では、最も重視する経営課題として、中規模企業・小規模事業者ともに「人材確保」と回答する割合が最も高いとされています。同じ節は、中小企業の産業間の労働移動について、特に労働移動が活発である産業として「宿泊業,飲食サービス業」を挙げています。人が入れ替わりやすい業種では、採用と教育が止まらず、その窓口が社長である限り、社長の時間は空きません。

もう一つの背景は、店舗ごとに数字の形が違うことです。形が揃っていないので、社長が各店を回って「今月どう?」と聞くしかなくなります。Tech Bloom の現場で見る多店舗の社長は、人の窓口と数字の集約を一人で担っていることがほとんどです。

社長の1週間がどの店のどんな仕事で埋まっているかは、社長の時間がない本当の理由の記録のやり方で確かめられます。

店舗業務と本部業務を分ける

打ち手の一つ目は、仕事を「店舗でやること」と「本部でやること」に分けることです。分ける基準は、その仕事が店ごとに違うか、全店に共通するか、です。

仕事店舗業務(店長)本部業務(社長の外に置く)
数字日々の売上・客数・原価の記録全店同じ形式での集計、前月・前年との比較、店長会議用の資料
採用面接の同席、初日の受け入れ求人の出稿、応募の窓口、面接の日程調整、入社書類
シフト店の実際の組み方、欠員の穴埋めシフトのルール(人件費の枠、休みの基準)の設計、全店の人員の偏りの確認
仕入れ発注の実行、在庫の確認仕入先との条件交渉、価格改定の反映、全店の原価率の比較
マニュアル現場での運用、改善点の報告作成、更新、全店への展開、新人教育の型
販促店頭の実施、SNSの投稿年間の販促計画、キャンペーンの設計、効果の確認
行政・衛生日々の記録、点検衛生管理計画の整備、許認可の更新期限の管理、届出

右の列が、社長の頭と携帯に集まっているものの正体です。右の列を「本部」に移せば、店長は左の列に集中でき、社長は右の列の「決める部分」だけを見ればよくなります。担う人は、社員でも外部COOでも構いません。採用するか外に頼むかの比較は「社長の右腕を「採用せずに持つ」」に書いています。

本部機能を切り出す手順

本部機能は、一度に作ろうとすると止まります。次の順で進めます。

  1. 社長の1週間を書き出し、店舗業務と本部業務に色分けする(上の表を使う)
  2. 本部業務のうち、毎週・毎月繰り返しているものを先に選ぶ(数字の集計、採用の窓口が多い)
  3. 選んだ仕事の「今のやり方」を一度だけ社長から聞き取り、手順と判断基準を文書にする
  4. 全店で同じ形式の数字の表を決め、店長からの報告の締め日と項目を固定する
  5. 店長会議の型(次の節)を決め、社長以外が運営する
  6. 採用の窓口を社長の携帯から外し、応募から面接日程までを本部が担う
  7. 3か月ごとに、社長に戻ってきている仕事を確認し、次に移すものを選ぶ

要点は、数字と採用を先に切り出すことです。この二つは全店に共通し、繰り返しがあり、社長の時間を最も奪っています。マニュアルや販促は、数字が揃ってからのほうが直す点が見えます。

社長に残す仕事本部に渡す仕事店長に任せる仕事
出店・閉店の判断出店候補の情報整理、収支の試算の材料商圏の肌感の報告
店長の任命・評価の決定評価の材料(数字・面談記録)の準備、面談の日程自店のスタッフの育成
価格・メニュー・品揃えの方針原価と売れ筋の比較表、仕入先との条件の整理店頭での実施と反応の報告
人件費の枠、投資の上限シフトのルール設計、全店の人員の偏りの可視化枠の中でのシフト作成
会社の方向性、理念の発信店長会議の運営、決定事項の期限管理会議での自店の報告

店長会議の型──アジェンダ・数字・期限

多店舗経営で最も効く仕組みは、店長会議です。ただし「集まって近況を話す会」では効きません。同じ形式の数字を前に、決めることを決め、担当と期限を付けて終わる会にする必要があります。

項目型
頻度・時間月1回または隔週、60分以内。日程は年間で固定
事前に配る数字全店同じ形式。売上・客数・客単価・原価率・人件費率・前月比・前年比
アジェンダの順1. 前回の決定事項の進み具合 2. 数字の共有(店長は「なぜ」だけ話す) 3. 今月決めること 4. 各店の困りごと 5. 決定事項と担当・期限の読み上げ
運営進行と議事録は本部(社長ではない)。社長は「決める」ときだけ発言
終わり方決定事項を「誰が・何を・いつまでに」で一覧にし、当日中に全店へ共有
次回まで期限の前に本部が進み具合を確認。止まっていたら会議を待たずに社長に上げる

数字の形が店ごとに違うと、会議の前半が「数字の説明」で消えます。形を揃えるだけで、決めるための時間が残ります。もう一つの要点は、社長が進行をしないことです。社長が進行すると、社長が話し、店長は聞く会になります。社長は決める人、進行と記録は本部、という分担にします。

数字・衛生・シフトに「型」を持つ

本部機能の土台は、全店に共通する「型」です。飲食・小売では、数字・衛生・シフトの三つに公的な前提があるので型にしやすく、型にしておかないと社長に戻ってきます。数字は、前の節の「事前に配る数字」を、店長が記録し本部が集計する形で固定します。毎月見る数字を1枚にまとめる作り方は「月次の数字の管理」に書いています。

衛生については、厚生労働省の HACCP(ハサップ)のページで、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理に取り組むことになった旨と、営業者が実施することとして、基準に基づいて衛生管理計画を作成し従業員に周知徹底を図ること、必要に応じて手順書を作成すること、実施状況を記録し保存すること、定期的に検証し見直すことが示されています。多店舗であれば、計画と手順書の雛形を本部で持ち、各店は記録に集中する形が自然です。自社がどの区分に当たるか、何を記録すべきかの最終判断は、保健所や専門家と連携して確認してください。

シフトについては、厚生労働省の労働時間・休日のページに、使用者は原則として1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけないこと、時間外・休日労働には労使協定(36協定)の届出が必要なこと、一定期間を平均する変形労働時間制があることが示されています。店ごとにシフトの考え方が違うと、この前提の確認も店ごとになります。人件費の枠と休みの基準を本部で設計し、店長は枠の中で組む形にすると、確認が一か所で済みます。労務の最終判断は、社会保険労務士など専門家と連携してください。

店長ごとにやり方が違う仕事を型に落とす手順は、属人化をほどくで扱っています。

うまくいかないパターン

本部機能を作ろうとして止まる型は、飲食でも小売でも似ています。

パターン起きること避け方
本部を作って、社長がそこにも入る本部の仕事も社長経由になり、窓口が二つに増えただけになる社長が本部でやるのは「決める」だけと最初に線を引く
数字が店ごとにバラバラのまま会議が数字の説明で終わり、比較も決定もできない形式・締め日・項目を先に固定してから会議を始める
店長に本部業務を兼務させる店長が現場を離れ、店の数字が落ちる本部業務は店長以外(社員・外部)が担う
一番できる店長の頭の中だけにマニュアルがあるその店長が辞めると、型ごと消える本部が聞き取って文書にし、全店に展開する
採用の窓口が社長の携帯のまま面接の日程調整で社長の日中が細切れになる応募から日程調整までを本部に移し、社長は最終面接だけ
販促を店ごとに任せきり店によって値引きや発信の内容が違い、ブランドがぶれる年間計画と雛形を本部で持ち、店は実施と反応の報告

最初のパターンが最も多いと、Tech Bloom では感じています。中小企業庁の2025年版中小企業白書 第2部第2章第2節は、企業規模を拡大するにあたって重要と考える組織・人材戦略として、売上高10億円未満の事業者では「経営者の兼務解消・権限委譲」の割合が最も高いと報告し、経営者一人で経営することの限界を「成長の壁」の一つとして挙げています。本部を作ることは、この兼務を解消する手段です。作った本部に社長が入り続けると、兼務の場所が変わるだけになります。

本部機能を作る前のチェックリスト

当てはまる項目が多いほど、本部機能を切り出す効果は大きくなります。

  • 社長の携帯に、店長からの相談が1日に何件も入る
  • 全店の売上・原価・人件費を、同じ形式で並べた表がない
  • 採用の応募への返信と面接の日程調整を、社長がやっている
  • シフトの欠員の穴を、社長が埋めに行くことがある
  • 店長会議がない、または近況報告で終わっている
  • マニュアルが、一番できる店長の頭の中にしかない
  • 衛生管理計画や許認可の更新期限を、店ごとに別々に管理している
  • 出店の判断材料を、社長が自分で集めている
  • 決めたことが、担当と期限のないまま次の会議まで止まっている

Tech Bloom の現場では

Tech Bloom は、社長の右腕・外部COOとして、多店舗経営の本部機能を社長の外に置く支援をしています。進め方は、聞く → 整理する → 動かす → 仕組みにする、の順です。最初の30分の面談では売り込みをせず、社長の1週間を聞いて、本部業務として引き取れる仕事をその場で整理してお伝えします。その後、1か月のトライアルで業務と課題の棚卸しを行い、最初の90日の優先順位と本契約の範囲をご提案します。

本契約では、全店共通の数字の表の設計と月次の集計、店長会議の運営と議事録・期限の管理、採用窓口の整備、マニュアルや衛生管理計画の雛形づくり、専門家との調整を担います。出店・閉店、店長の任命、価格の方針は社長が決めます。法律・税務・労務の最終判断は、各専門家と連携します。常駐はせず、オンラインで全国に対応しています。プランの詳細は料金、進め方はサービスの案内を、飲食・小売を含む業種ごとの課題と支援の例は実例をご覧ください。

まとめ

  • 多店舗経営で社長が現場から離れられないのは、店舗の数だけ「店長の上の判断」が増える構造の問題
  • 仕事を店舗業務と本部業務に分け、数字の集計と採用の窓口から本部に移す
  • 店長会議は、全店同じ形式の数字と、担当・期限つきの決定事項で回す。進行は社長以外
  • 数字・衛生・シフトは公的な前提があるので型にしやすく、本部で雛形を持つ
  • 本部を作っても社長がそこに入り続けると兼務の場所が変わるだけ。社長は「決める」に絞る
  • 担い手は社員でも外部COOでもよい。型を会社に残すことが条件

よくある質問

何店舗くらいから本部機能が必要ですか

店舗数より、社長の携帯に店長からの相談が集まっているかどうかで判断します。2店舗でも、社長が両店の穴を埋めている状態なら、数字の集計と採用の窓口を外に置く効果があります。

本部を作る人を採用する余裕がありません

本部機能は「人を雇うこと」ではなく「仕事の置き場を店の外に作ること」です。最初は数字と採用の窓口を社長の外に置くだけでも変わります。外部で型を作ってから社員に引き継ぐ会社もあります。

店長に本部の仕事を任せてはいけませんか

店長が現場を離れると店の数字が落ちやすいので、おすすめしていません。一番できる店長は店を任せたまま、マニュアルの元になる知識を本部が聞き取る相手にするのがよいと考えています。

店長会議はオンラインでもできますか

できます。数字を事前に同じ形式で配り、決定事項を担当と期限つきで残す型があれば、対面である必要はありません。移動時間がなくなり、隔週で続けやすくなります。

衛生管理やシフトのルールも外部COOに任せられますか

計画や手順書の雛形づくり、記録の型、更新期限の管理といった実務は担えます。自社がどの区分に当たるかや労務の最終判断は、保健所や社会保険労務士など専門家と連携して確認し、決まったことを全店に展開します。

参考・出典

  1. 2025年版 中小企業白書 第1部第1章第3節 雇用環境・労働移動(中小企業庁。確認日 2026-09-25)
  2. 2025年版 中小企業白書 第2部第2章第2節 スケールアップに向けた課題(中小企業庁。確認日 2026-09-25)
  3. HACCP(ハサップ)(厚生労働省。確認日 2026-09-25)
  4. 労働時間・休日(厚生労働省。確認日 2026-09-25)

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