この記事の要点
- 社長の時間がない本当の理由は、仕事の量より「何に消えているか」が見えていないことにあります
- まず1週間、30分単位で記録します。正確さより「続けて全部書く」ことを優先します
- 記録から見えるのは、決める時間の少なさと、小さな確認と割り込みの多さです
- 記録は分類して、使い先を決め、渡す相手を決めて初めて時間が戻ります
「気づいたら1日が終わっている」「経営のことを考える時間が、今週も取れなかった」。社長からよく聞く言葉です。忙しいのは確かです。ただ、何に忙しいのかを聞くと、はっきり答えられる社長は多くありません。忙しさの正体が見えていないまま、働く時間を増やして対処している状態です。
社長の時間記録とは、1週間、社長自身が何に何分使ったかを、そのまま書き留めることです。目的は反省ではなく、時間の使い先を「決める」「動かす」「確認する」「割り込みに応じる」などに分け、どこから取り戻すかを判断する材料にすることです。
この記事では、社長の時間がない本当の理由、1週間の記録のやり方、記録から見える時間の分類、割り込みと「小さな確認」の扱い、社長の時間の使い先を決める基準、うまくいかないパターン、チェックリストを整理します。社長の仕事そのものを分ける方法は「社長業務の棚卸し」に書いたので、この記事は「時間」の側から見ます。
社長の時間がない本当の理由は「見えていない」こと
結論から言うと、社長の時間がない本当の理由は、仕事の量そのものより、時間の使い先が見えていないことにあります。見えていないと、減らす対象が決まらず、働く時間を伸ばすしか手がなくなります。
時間の不足は、中小企業の経営に広く影響しています。中小企業庁の2025年版中小企業白書 第2部第1章第1節では、経営計画を策定していない事業者の理由として「時間的余裕がないため」の割合が最も高いと報告しています。同じ白書の第5節 経営者の成長意欲でも、経営者がリスキリングに取り組まない理由として「時間の確保が困難」の回答割合が最も高いとされています。計画を作る時間も、学ぶ時間も、後回しになる先に社長の時間があるということです。
一方で、社長自身の時間を記録する仕組みは、多くの会社にありません。厚生労働省の労働時間・休日のページは、労働基準法により使用者は労働時間を適切に管理する責務を有する、と説明しています。これは従業員の労働時間についての話で、使用者である社長自身の時間は、誰も記録していないのが普通です。制度の適用範囲については専門家と確認していただくとして、ここで言いたいのは一つです。記録がない時間は、減らしようがありません。
Tech Bloom の現場で見る典型は、「経営を考える時間が足りない」と言う社長の1週間を記録すると、決める時間はごくわずかで、社員からの短い確認、取引先からの連絡、社長にしか分からない作業が細かく積み重なっている、という形です。中小企業基盤整備機構の J-Net21 は業務プロセスの見直しの中で、現場を見ていても意外とムダには気づきにくい、と述べています。社長自身の時間も同じで、見ているだけでは気づけません。書き出して初めて見えます。
1週間の時間記録のやり方
記録は、次の手順で進めます。道具は紙でも表計算でもかまいません。大事なのは、1週間分を途切れず書くことです。
- 記録する週を決める。出張や決算など特別な週は避け、いつもの週を選ぶ
- 30分単位で、その時間に何をしたかを一言で書く。判断に迷ったら「主に何をしたか」でよい
- 割り込みがあったら、時間の中に「割」と印をつけ、誰から何の件かを一言添える
- 1日の終わりに5分だけ、その日の記録を見返して、空欄を埋める
- 週の終わりに、記録をまとめて分類する(次の節)
記録する項目は、次のとおりです。多くしすぎると続かないので、この四つだけにします。
| 項目 | 書き方 | 例 |
|---|---|---|
| 時間帯 | 30分単位 | 9:00〜9:30 |
| 何をしたか | 一言 | 見積の最終確認、取引先からの着信、請求書の承認 |
| 誰の依頼か | 自分・社員・取引先・その他 | 社員(経理)、取引先 |
| 割り込みか | 予定していた仕事なら空欄、突然なら「割」 | 割(チャットで支払条件の確認) |
「何をしたか」は、正確な作業名でなくてよく、あとで自分が思い出せれば十分です。1週間で見たいのは、個々の作業ではなく、時間の偏りだからです。
この四つの項目を30分単位の表にし、四つの時間に分けた合計が出るようにした「社長の仕事の棚卸しシート」を、無料で置いています。Excel 形式で、Numbers でも開けます。Google スプレッドシートで使う場合は、自分のドライブにコピーして始められます。メールアドレスの登録は要りません。棚卸しシートをダウンロードする(xlsx)
記録から見える四つの時間
1週間分がそろったら、時間を四つに分けます。仕事を「決める・任せる・やめる」に分ける棚卸しの手順は「社長業務の棚卸し」に書きました。この記事では、その前段として、時間の性質で分けます。
| 時間の種類 | 中身 | 典型的な記録 |
|---|---|---|
| 決める時間 | 社長にしかできない判断と、その材料を見る時間 | 受注の可否、採用の最終判断、投資の判断 |
| 動かす時間 | 手を動かす実務。社長でなくてもできることが多い | 見積の作成、資料の修正、請求書の処理 |
| 確認する時間 | 社員や取引先からの確認に答える時間 | 「これで進めていいですか」への返答 |
| 応じる時間 | 予定になかった割り込みに対応する時間 | 突然の着信、チャットの返信、来客 |
分けると、多くの社長で同じことが起きます。決める時間が全体のごく一部で、動かす時間と確認する時間が大半を占め、応じる時間が1日の中に細かく散っています。「経営を考える時間がない」の正体は、決める時間が奪われているというより、決める時間が最初から確保されていないことです。
ここで大事なのは、動かす時間と確認する時間の多くが、社長でなくてもよい仕事だということです。「自分でやったほうが早い」という判断が積み重なった結果である場合が多く、その抜け方は「「自分でやったほうが早い」の罠」に書いています。
割り込みと「小さな確認」の扱い
割り込みと小さな確認は、1回ごとの時間は短いのに、合計すると大きく、しかも決める時間を細切れにします。30分の判断が、5分の確認に三度中断されると、判断は次の日に持ち越されます。
小さな確認が多い理由は、社員の側にあるのではなく、判断の基準が社長の頭の中にしかないことにあります。「この金額まで値引きしてよいか」「この納期で受けてよいか」が言葉になっていなければ、社員は毎回聞くしかありません。聞かれるたびに答える社長は、一日中、判断の基準を口頭で配っていることになります。基準を書いて、どこまで任せるかを決める進め方は「権限委譲の進め方」に書いています。
| 割り込みの種類 | 起きている理由 | 扱い方 |
|---|---|---|
| 同じ内容の確認が繰り返される | 判断の基準が言葉になっていない | 基準を書いて渡す。「この範囲は聞かずに進めてよい」を決める |
| 社長しか答えられない問い合わせ | 情報が社長にしかない | 情報の置き場を決め、社員が先に見られるようにする |
| 取引先からの直接連絡 | 窓口が社長になっている | 窓口を一人決め、社長は必要なものだけ受ける |
| 緊急ではないのに即答している | 「すぐ返す」が習慣になっている | 確認に答える時間帯を決め、まとめて返す |
割り込みをゼロにはできません。ただ、記録に「割」の印が付いた時間を並べると、同じ人から同じ種類の確認が来ていることが見えます。それは、基準を一つ書けば消える割り込みです。決めたことが進まない会社では、この「小さな確認」が決定の場の外で処理されていることが多く、その構造は「決めたことが進まない」に書きました。確認を定例にまとめて扱う型は「会議を減らして回す」に載せています。
社長の時間の使い先を決める基準
記録と分類ができたら、社長の時間を何に使うかを決めます。「全部を効率よくやる」ではなく、社長の時間を使うべきものと、使うべきでないものを分けます。
| 問い | 答えが「はい」なら | 答えが「いいえ」なら |
|---|---|---|
| 社長が決めないと会社の方向が変わるか | 社長の時間を使う | 基準を決めて渡す |
| 相手が社長であることに意味があるか(主要な取引先、金融機関、採用の最終面接) | 社長の時間を使う | 窓口を社員か外部に移す |
| 同じ作業が月に2回以上あるか | 型にして渡す | 一度きりなら社長がやっても、次からは残さない |
| 止まると売上か信用に直結するか | 期限と担当を決めて社長が確認する | 確認の頻度を落とす |
| 社長がやらないと品質が落ちるか | 当面は社長。ただし基準を書く | 渡す |
この基準で見ると、社長の時間の使い先は「決める」「相手が社長である意味のある場」「型ができるまでの期間限定」の三つに絞られます。それ以外は、渡す先を決める対象です。渡す先が社内にない場合、外部COO(COO代行・社外COOとも呼ばれます)が、動かす時間と確認する時間を引き取る役割になります。役割の範囲は「外部COOとは」に書いています。
任せる先が社内にいない場合の選択肢は、右腕がいない会社で起きることで整理しています。
うまくいかないパターン
時間記録は簡単に見えて、途中で止まることが多い取り組みです。Tech Bloom の現場で見るのは次のものです。
| パターン | 起きること | 避け方 |
|---|---|---|
| 記録が続かない | 2日目で空欄が増え、3日目で止まる | 30分単位・一言だけにする。1日の終わりに5分で埋める |
| 正確さにこだわる | 分単位で書こうとして、記録そのものが負担になる | 「主に何をしたか」でよい。見たいのは偏り |
| 記録して終わる | 「忙しいことが分かった」で満足し、何も変わらない | 週の終わりに分類し、渡す先を一つ決める |
| 社員に記録させる | 社長が自分の記録をせず、社員の時間だけ見る | 社長の時間が先。社員の記録は別の目的 |
| 一度に全部変える | 割り込みを全部断ち、社員が動けなくなる | 基準を一つ書き、一つの確認を消すところから |
| 減った時間を埋める | 空いた時間に新しい実務を入れてしまう | 決める時間を先に予定に入れて固定する |
一番多いのは「記録して終わる」です。記録は診断であって治療ではありません。分類し、渡す先を決め、決める時間を予定に入れる。ここまでで、初めて時間が戻ります。
時間を取り戻せているかのチェックリスト
1週間の記録のあと、1か月ほど経った時点で確認してください。当てはまらない項目が、次に手をつける場所です。
- 1週間の記録を、空欄なく最後まで書けた
- 記録を四つの時間に分類し、決める時間が全体のどれくらいかを把握している
- 同じ種類の確認が繰り返されている相手と内容を、一つ以上特定した
- その確認を消すための基準を、一つ以上書いて渡した
- 取引先からの連絡の窓口を、社長以外に一人決めた
- 決める時間を、毎週の予定に固定した
- 動かす時間のうち、渡す先を決めたものが一つ以上ある
- 空いた時間に、新しい実務を入れていない
- 1か月後に、もう一度同じ記録をする日を決めている
Tech Bloom の現場では
Tech Bloom は、社長の右腕・外部COOとして、この記録と分類を社長と一緒に進めています。最初の30分の面談では売り込みをせず、その場で右腕として引き取れる仕事を整理してお伝えします。1か月のトライアルでは、社長へのヒアリングと業務の棚卸しを行い、記録で見えた「動かす時間」「確認する時間」のうち、引き取れるものと、基準を書いて社員に渡せるものを分け、最初の90日の優先順位と本契約の範囲をご提案します。
本契約は月額固定で、定例の頻度はプランによって月1回から週複数回までを選べます。確認の窓口を Tech Bloom に移し、判断の材料を揃えた状態で社長に渡すことで、社長の時間を「決める」に寄せていきます。決めるのは社長で、経営判断そのものは引き受けません。プランの詳細は料金、進め方はサービスの案内、業種ごとの例は実例をご覧ください。
まとめ
- 社長の時間がない本当の理由は、量ではなく、時間の使い先が見えていないこと
- 白書では、経営計画を作らない理由も、経営者が学ばない理由も「時間」が最多。後回しの先に社長の時間がある
- 1週間、30分単位で一言だけ記録する。正確さより続けることを優先する
- 記録は「決める」「動かす」「確認する」「応じる」の四つに分ける
- 小さな確認は、判断の基準が言葉になっていないことの表れ。基準を一つ書けば一つ消える
- 記録は診断。分類して、渡す先を決め、決める時間を予定に固定して初めて戻る
よくある質問
時間記録は1週間で足りますか
いつもの週であれば、偏りを見るには足ります。特別な週を選ぶと結果がゆがむので、出張や決算の週は避けてください。1か月後にもう一度記録すると、変化が確かめられます。
記録する時間そのものがもったいなく感じます
30分単位で一言だけなら、1日の記録に使うのは5分程度です。記録しないまま働く時間を増やすほうが、失う時間は大きいと考えています。
記録したら、社長の仕事がほとんどでした。渡す相手がいません
渡す相手がいないと感じるときは、渡す前の整理ができていないことが多いです。基準を書き、型を作れば、社員に渡せるものが出てきます。社内に相手がいない場合は、外部COOが動かす時間と確認する時間を引き取り、型ができたところから社員に戻す形もあります。
割り込みを断ると、社員が動けなくなりませんか
断るのではなく、答え方を変えます。基準を書いて渡し、「この範囲は聞かずに進めてよい」と決めれば、社員はむしろ動きやすくなります。緊急かどうかの線引きも一緒に決めておくと、本当に急ぎのものだけが社長に届きます。
時間記録と業務の棚卸しは、どちらを先にやればよいですか
どちらからでも構いませんが、時間記録のほうが取りかかりやすいと考えています。1週間書けば、棚卸しの材料が自然にそろいます。棚卸しの手順は「社長業務の棚卸し」をご覧ください。
参考・出典
- 2025年版 中小企業白書 第2部第1章第1節 経営戦略(中小企業庁。確認日 2026-09-25)
- 2025年版 中小企業白書 第2部第1章第5節 経営者の成長意欲(中小企業庁。確認日 2026-09-25)
- 労働時間・休日(厚生労働省。確認日 2026-09-25)
- 業務プロセスの見直しによる生産性向上(経営ハンドブック)(中小企業基盤整備機構 J-Net21。確認日 2026-09-25)
まずは30分、状況を聞かせてください
記録を始める前の段階でも構いません。棚卸しシートに書いた記録があれば、お持ちください。その場で、右腕として引き取れる仕事を整理してお伝えします。お問い合わせからどうぞ。


