製造業・BtoBの社長が営業資料と展示会の準備を手放すには

この記事の要点

  • 製造業・BtoBの社長には、営業資料・展示会・引き合い対応・補助金・認証書類という「非製造業務」が集まります
  • 社長しか書けないのは技術の判断と顧客との約束。構成・体裁・工程管理・追客の仕組みは外に出せます
  • 展示会は企画→資料→出展→追客の工程に分け、社長が立つのは出展当日と技術説明だけにします
  • 資料だけ作って追客の仕組みがないと、展示会の名刺は机の上で止まります

「図面も現場も見る。見積りも自分で出す。展示会の資料は夜に作る」。製造業やBtoBの部品・装置・加工を手がける会社の社長から、よく聞く話です。技術は社長にしか分からない。だから営業も社長がやる。営業資料も、展示会の準備も、引き合いへの返信も、補助金の申請も、取引先から求められる認証や監査の書類も、結局は社長の机に集まります。

ここで言う「非製造業務」とは、製品をつくる工程そのものではないのに、社長が兼務している仕事のことです。営業資料、展示会、引き合いの一次対応、補助金の申請、認証や監査の書類などが典型です。

この記事では、製造業・BtoBの社長に集まる非製造業務の一覧と渡し方、展示会の準備の工程表と担当の分け方、営業資料の「社長しか書けない部分/外に出せる部分」の分け方、うまくいかないパターン、チェックリストを整理します。士業・コンサル事務所の所長業務は「士業・コンサル事務所の所長業務」に書いたので、ここでは製造業・BtoBに固有の仕事に絞ります。

なぜ製造業・BtoBでは営業が社長に集まるのか

結論から言うと、技術の説明と価格の判断が分けられないまま、営業の全工程が社長に載っているからです。

BtoBの営業では、相手は技術と納期と価格を同時に聞いてきます。製品の仕様を判断できるのは社長か工場長。価格を決められるのは社長。すると引き合いの返信も、展示会のブースに立つのも、提案書を書くのも社長になります。

中小企業庁の2025年版中小企業白書は、売上高10億円の「成長の壁」は経営者一人で経営することの限界であり、営業人材や経理人材など経営者に足りないスキルを補う専門人材の確保と、経営者に集中しがちな職務権限の委譲が必要だ、と述べています。また2025年版小規模企業白書では、支援機関が事業者から相談される課題として「資金繰り改善」「販路の強化・開拓」「人材確保・人材育成」の回答割合が高い、と報告されています。

社長に集まる非製造業務の一覧と渡し方

渡す前に、何が社長に集まっているかを一覧にします。Tech Bloom の現場で見る典型を、渡し方とともに並べます。

社長に集まる仕事社長に残すこと外に出せること渡し方
営業資料(会社案内・製品カタログ・提案書)技術の強みの言語化、事例の選定構成、文章の整形、図表、体裁、更新管理社長が話した内容を聞き取り、下書きにして戻す
展示会(企画・準備・出展・追客)出展当日の技術説明、商談の判断出展手続き、案内状、資料、当日の運営、名刺の整理、追客工程表を作り、社長の担当を二つに絞る
引き合い対応(問い合わせの返信・見積り)仕様の可否、価格の最終判断一次返信、必要情報の聞き取り、見積りの下書き、進捗の追跡返信の型と聞き取り項目を決める
補助金・助成金何に投資するかの判断情報収集、要件の確認、事業計画の整理、専門家との調整「投資の目的」だけ社長が話し、あとは外に出す
認証・監査の書類現場の実態の確認、承認書式の整備、記録の収集、更新期限の管理、専門家との調整更新期限の一覧を作り、期限管理から渡す
取引先の要望への対応(品質・納期の連絡)対応方針の決定連絡の記録、社内への展開、期限の追跡記録の型を決め、社長は判断だけ

補助金の申請を誰が担うかの線引きは「補助金の申請は誰がやる」に書いています。認証や監査の書類は、規格ごとの要件を専門家と確認しながら進めるものなので、外に出すのは書式の整備と期限の管理までにします。許可や届出を期限の一覧から渡す例は、業種は違いますが「建設・不動産の社長の書類と調整」にもあります。

渡す先を「作業の外注」にするか「経営の実務を進める外部COO」にするかは、オンライン秘書・BPO・外部COOの違いを参照してください。外に出した作業の発注先が増えたときの窓口のまとめ方は「外注管理の方法」に書いています。

展示会の準備の工程表と担当

結論は、企画→資料→出展→追客の四つの工程に分け、社長の担当を「出展当日の技術説明」と「商談の判断」の二つに絞ることです。

日本貿易振興機構(ジェトロ)は展示会・商談会への出展支援のページで、自社でアポイントをとって商談できる数は限られているが、見本市・展示会に出展すれば短期間に多くのバイヤーと接触することができ、効率的に商談を進められる、と説明しています。中小企業基盤整備機構の J-Net21 は展示会出展のポイントに関する Q&Aで、一見の来場者に期待するのではなく、事前に来場見込み客を決めて「商談の場」として活用すること、既存顧客や過去の問い合わせ客に対して事前に展示会の案内を送付して来場してもらうこと、そして興味のある来場者のアンケートや名刺を回収し、後日、丁寧なフォローをしていくことが重要だ、と述べています。

展示会の成果は前と後で決まり、前と後は社長でなくてもできます。

工程やること担当社長の関わり
1. 企画出展の目的、狙う来場者、目標(商談件数)、予算、出展手続き右腕・外部COO目的と狙う相手を決める
2. 資料・集客案内状の作成と送付、来場予約の時間割、展示物、配布資料、当日の役割表右腕・外部COO+社内技術の説明部分を確認する
3. 出展ブース運営、来場者の受付、アンケートと名刺の回収、商談の記録社内+社長技術説明と商談の判断
4. 追客名刺の整理、優先順位づけ、お礼と資料の送付、商談の設定、進捗の追跡右腕・外部COO商談に出る、見積りを判断する

工程1と2は出展の数か月前から、工程4は出展の翌週が勝負です。ここに人がいないと、名刺が机の上で止まります。

営業資料の「社長しか書けない部分」と「外に出せる部分」

資料の全部を社長が書く必要はありません。結論は、社長が書くのは「技術の強みの言語化」と「顧客との約束」の二か所で、それ以外は聞き取りから作れる、ということです。

資料の要素社長しか書けない外に出せる
自社の技術の強み(何ができて、何ができないか)判断と言語化聞き取って文章にする、図にする
対応できる仕様・精度・材質・数量の範囲数値と条件の確定一覧表にまとめる、更新する
事例(どの業界の、どんな課題に、何を納めたか)事例の選定と、開示してよい範囲事例の型に沿って書く、写真と図の手配
品質・納期・体制(設備、認証、検査)実態の確認一覧化、認証の表記の確認
会社の姿勢・取引の進め方顧客との約束文章の整形
構成・デザイン・体裁・更新なしすべて

中小企業庁の2024年版小規模企業白書は、販路開拓に取り組む事業者のうち、顧客ターゲットを明確にできている事業者ほど売上高の見通しが増加と回答する割合が高い傾向にあるとして、販路開拓を行う上で顧客ターゲットを明確にすることが重要だと示唆しています。「誰に読ませる資料か」を決めるのは社長の仕事です。

手順は次のとおりです。

  1. 社長に30分から60分、技術の強みと事例を話してもらい、録音と文字起こしから下書きを作る
  2. 対応範囲の一覧表を、工場長や現場の担当者から集めて埋める
  3. 事例の型(業界・課題・納めたもの・結果の説明)を決め、社長が開示してよい範囲を判断する
  4. 下書きを社長が確認し、技術の記述だけ赤を入れる
  5. 体裁を整え、更新の担当と時期を決める

この手順の裏側では、文字起こしや下書きに AI を使えます。ただし、技術の記述の最終確認は必ず社長です。AI の使い方は「AI を裏側で使う右腕」に書いています。

社長の頭の中にある技術の説明を文章に落とす手順は、属人化をほどくで詳しく扱っています。

うまくいかないパターン

製造業・BtoBの社長が非製造業務を手放そうとして、うまくいかない型は決まっています。

パターン起きること避け方
技術説明まで外に出す相手の技術的な質問に答えられず、信用を落とす技術説明は社長か工場長。外に出すのはその前後
資料だけ作って追客の仕組みがないきれいなカタログができ、名刺は机の上で止まる追客の担当と期限を、資料より先に決める
展示会を「出ること」が目的になる出展はしたが、商談件数の目標も記録もない企画の段階で目標と記録の型を決める
引き合いの返信を社長が全部する返信が遅れ、見込み客が離れる一次返信と聞き取りの型を作り、判断だけ社長
補助金・認証の期限を社長が覚えている期限を過ぎてから気づく期限の一覧を作り、追う人を決める
渡したのに社長が口を出し続ける相手が指示待ちになり、結局社長に戻る「この範囲は聞かずに進めてよい」の線を引く

2025年版小規模企業白書は、デジタル化でコスト面の効果を感じている事業者では「顧客データの一元管理」「営業活動や受発注管理のオンライン化」「紙書類の電子化・ペーパーレス化」と回答した割合の差が大きい、と報告しています。名刺と引き合いの記録を一か所にまとめるのは追客の土台であり、社長でなくてもできます。

手放す前のチェックリスト

次の項目に当てはまるものを数えてください。当てはまる項目が、そのまま渡す仕事の候補です。

  • 営業資料の最終版が、社長のパソコンの中にしかない
  • 展示会の準備が、いつも出展の直前の夜になっている
  • 前回の展示会で集めた名刺の追客が、半分以上残っている
  • 引き合いへの一次返信を、社長がしている
  • 補助金の情報収集と申請書の下書きを、社長がしている
  • 認証や監査の書類の更新期限を、社長が頭で覚えている
  • 取引先からの品質・納期の連絡が、すべて社長宛てに集まっている
  • 「技術は社長にしか分からない」を理由に、営業の全工程を社長がやっている

業種ごとの課題と支援の例は実例にまとめています。製造・BtoBの項では、技術を持つ社長に営業と管理が集まる状態から、渡せる仕事を切り出した例を挙げています。

Tech Bloom の現場では

Tech Bloom は、社長の右腕・外部COO(COO代行・社外COOとも呼ばれます)として、製造業・BtoBの会社に業務委託で入ります。最初の30分の面談では売り込みをせず、その場で右腕として引き取れる仕事を整理してお伝えします。そのうえで、1か月のトライアルで社長へのヒアリングと業務の棚卸しを行い、最初の90日の優先順位と本契約の範囲をご提案します。

製造業・BtoBでは、まず展示会か営業資料のどちらか一つから始めることが多いです。社長に技術と事例を話してもらい、下書きと工程表を作り、追客の記録の型を決めます。技術の説明と価格の判断は社長に残し、その前後を引き取ります。引き受けないのは、経営判断そのもの、契約の締結や支払いの実行、法律・税務・労務の最終判断です。範囲は「外部COO(COO代行)とは」に、プランは料金に、進め方はサービスの案内に書いています。

まとめ

  • 製造業・BtoBの社長には、営業資料・展示会・引き合い・補助金・認証書類という非製造業務が集まる
  • 社長に残すのは、技術の判断と価格の判断、顧客との約束。構成・体裁・工程管理・追客は外に出せる
  • 展示会は企画→資料→出展→追客に分け、社長は出展当日の技術説明と商談の判断だけに立つ
  • 白書と J-Net21 が示すとおり、展示会の成果は事前の案内と後日のフォローで決まる
  • 資料だけ作って追客の仕組みがないのが、最も多い失敗。名刺と引き合いの記録を一か所にまとめる

よくある質問

技術は社長にしか分からないのに、営業資料を外に作れますか

作れます。社長が書くのは技術の強みの言語化と顧客との約束の二か所で、それ以外は聞き取りから作れます。社長に話してもらい、下書きにして戻し、技術の記述だけ社長が赤を入れる、という手順です。

展示会の準備は、どこから渡せばよいですか

追客からです。前回の展示会で集めた名刺の整理と、お礼・資料の送付・商談の設定を先に渡すと、効果が早く見えます。次の展示会からは、企画と案内状の送付も渡します。

引き合いへの返信を任せると、技術的な質問に答えられないのでは

一次返信は「受け取ったこと」「必要な情報の聞き取り」「回答の目安」に限ります。技術の可否と価格は社長か工場長が判断し、その結果を返信するのは任せられます。

補助金や認証の書類も頼めますか

情報収集、要件の確認、事業計画の整理、期限の管理までです。申請書類の作成は行政書士、要件の解釈や規格の判断は各専門家と連携し、最終判断と申請は社長です。詳しくは「補助金の申請は誰がやる」をご覧ください。

社員数名の町工場でも対象ですか

対象です。社長が図面も現場も営業も見ている会社ほど、渡せる非製造業務が多くあります。オンラインで全国に対応しており、訪問や出張は個別にご相談ください。

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