Web制作・広告会社の社長が営業と進行管理を抱え込まないために

この記事の要点

  • 小さな制作会社・代理店では、営業、見積もり、進行管理、外注の手配が社長に集まりがちです
  • 社長が持つのは受ける案件・価格・品質基準の判断。見積書の作成や進行表の更新は渡せます
  • 見積もり・提案書・進行表・振り返りの4つを型にすると、判断と作業が分かれます
  • 外注先との取引は取適法やフリーランス法に関わり得るため、条件の示し方を専門家と確認します

「問い合わせに返して、提案書を書いて、見積もりを出す。受注したら進行を回して、外注さんの納品物を確認して、月末は請求書」。社員が数名から十数名のWeb制作会社や、広告・マーケティングの代理店の社長から、よく聞く一日です。社長がいちばんの営業で、いちばんのディレクター。案件が増えるほど、新規の問い合わせへの返信が遅れ、確認待ちの案件が社長の机で止まります。

ここで言う「受託の属人化」とは、案件の受注から納品までの判断と段取りが社長一人の頭の中にあり、社長が止まると案件も止まる状態のことです。制作物の質の問題ではなく、仕事の流れの問題です。

この記事では、受託の会社で営業と進行管理が社長に集まる理由、社長が持つ判断と渡せる実務の線引き、見積もり・提案書・進行表・振り返りを型にする手順、外注パートナーとの取引で押さえること、うまくいかないパターンとチェックリストを整理します。渡す先としては、社内の担当者のほか、外部COO(COO代行・社外COOとも呼ばれます)という社長の右腕も選べます。士業・コンサル事務所の場合は「士業・コンサル事務所の所長業務」、製造業の営業資料と展示会は「製造業・BtoBの社長」に書いたので、ここでは受託制作と広告運用に固有の仕事に絞ります。

なぜ受託の会社では営業と進行管理が社長に集まるのか

結論から言うと、受託の仕事は「売るもの」が案件ごとに違うため、何をいくらで、どこまでやるかを決められる人が社長しかいないからです。商品が決まっている業種と違い、見積もりのたびに範囲と工数を考え直すことになります。商品が決まっている EC・通販の場合は「EC・通販の受注と問い合わせ対応」に書いています。

さらに、発注する側は「この人に頼んだ」という感覚で社長を窓口にしがちです。打ち合わせに社長が出て、要望を聞いたのも社長なので、その後の仕様の判断も社長に戻ってきます。外注のデザイナーやエンジニアへの指示も、要望を聞いた本人が出すほうが早い。こうして、営業からディレクション、品質確認までが一本の線で社長につながります。

Tech Bloom の現場でよく見るのは、社長が夜に提案書と見積書を書き、昼は定例と修正の確認に追われ、請求書の発行が月をまたいで遅れる、という形です。

社長に集まる仕事集まる理由手放す方向
新規の問い合わせ対応と提案何ができるかを説明できるのが社長だけ一次返信とヒアリング項目を型にする
見積もり範囲と工数の判断が頭の中にある項目と前提条件の雛形を作り、判断だけ残す
ディレクション・進行管理要望を聞いた本人が仕様を決めている進行表と議事録で、決まったことを外に出す
外注パートナーの手配と品質確認誰に何を頼むかの記憶が社長にある依頼書の型と確認の基準を決める
請求・契約まわりの事務案件の状況を知るのが社長だけ進行表と請求の予定をつなげる
採用求める人物像が言葉になっていない募集要項の下書きと日程の調整を渡す

社長が持つ判断と、渡せる実務の線引き

社長が手元に残すのは、受ける案件、価格、品質基準の三つの判断です。それ以外の、判断を形にする作業は渡せます。

理由は単純で、この三つは会社の方針そのものだからです。どの案件を断るか、どこまで値引きするか、どの水準なら納品してよいか。ここを人に委ねると、会社の色が変わります。一方で、見積書を組み立てる、進行表を更新する、外注先に依頼書を送るといった作業は、判断の基準さえ言葉になっていれば、社長でなくてもできます。

具体的には、見積もりなら「この範囲をこの単価で」という判断は社長、項目の書き出しや前提条件の記載、過去の似た案件との比較は右腕、と分けます。属人化のほどき方そのものは「属人化をほどく」で詳しく扱っています。

領域社長が決めること渡せる実務
受注受ける案件・断る案件の基準問い合わせの一次返信、ヒアリング、提案書の下書き
価格単価、値引きの上限、支払条件見積書の作成、過去案件との比較、前提条件の記載
品質納品してよい水準、最終の確認確認項目の一覧、外注先への修正依頼、進行表の更新
人と外注誰と組むか、採用するかどうか依頼書の送付、日程の調整、募集要項の下書き

見積もり・提案書・進行表・振り返りを型にする

渡す前に、まず四つの書類を型にします。型があると、社長は「中身の判断」だけを見ればよくなり、作業は他の人が埋められます。

中小企業基盤整備機構のJ-Net21 ビジネスQ&A「業務の標準化はどのように進めたらよいでしょうか。」では、業務の流れを描き出したうえで、フローチャートにどのステップを誰が担当しているかを明記することが、責任を明確にして属人化を防ぐ手順として挙げられています。受託の会社では、この「流れと担当」を載せる場所が進行表です。

進め方は次の順番です。

  1. 直近の案件を三つ選び、問い合わせから請求までの流れを書き出す
  2. 流れの各段階に、いま誰が関わっているかを書き込む(ほぼ社長の名前が並ぶはずです)
  3. 見積書と提案書の共通する項目を抜き出し、雛形にする
  4. 進行表に「決まったこと」「次に決めること」「確認待ちの相手」の列を足す
  5. 案件の終わりに、見積もりと実際の工数の差を振り返る欄を作る
  6. 次の案件で型を使い、合わなかった箇所を直す
型最低限の中身埋める人社長が見る点
見積書作業項目、前提条件、含まないもの右腕・担当者単価と範囲
提案書相手の課題、進め方、体制、日程右腕・担当者提案の筋と強み
進行表工程、担当、期限、確認待ち担当者遅れと判断待ち
振り返り見積もりとの差、修正の回数、次への改善右腕価格と基準の見直し

振り返りは省かれがちですが、次の見積もりの精度を上げるのはこの欄です。自分の時間がどこに消えているかを先に確かめたい場合は「社長業務の棚卸し」の手順が使えます。

外注パートナーとの取引で押さえること

受託の会社は、クライアントから仕事を受ける側であると同時に、外注のデザイナーやエンジニアに仕事を出す側でもあります。出す側としての取引条件は、社長の記憶ではなく書面で残す形にしておくと、渡しやすくなります。発注する側として外注先の台帳と窓口を整える手順は「外注管理の方法」に書いています。

関係し得る法令は二つあります。一つは、e-Gov 法令検索の製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)です。中小企業庁の取適法の概要・取組によると、下請法を改正したこの法律が令和8年1月1日に施行されました。条文では「情報成果物作成委託」が定義され、情報成果物としてプログラムや、文字・図形などで構成されるものが挙げられています。また、委託事業者は中小受託事業者の給付の内容、代金の額、支払期日及び支払方法などを書面又は電磁的方法で明示する、と定められています。

もう一つは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)です。個人で従業員を使用しない事業者などを「特定受託事業者」とし、業務委託をしたときは給付の内容、報酬の額、支払期日などを明示することが定められています。

どちらも、自社が対象になるかは資本金の額や相手の形態などで変わります。Tech Bloom は法律の判断をしません。依頼書や発注書の型を作る段階で、該当するかどうかと書き方を、弁護士など専門家と連携して確認する流れにしています。

うまくいかないパターン

型を作っても、渡し方を誤ると社長に仕事が戻ってきます。よく見るのは次の形です。

  • 判断の基準を言葉にしないまま渡す:見積もりを任せても、値引きの上限が決まっていないと、結局すべて社長の確認待ちになります。任せる深さの決め方は「権限委譲の進め方」で扱っています
  • 窓口だけ移して、決める人は社長のまま:クライアントとのやり取りを担当者に移しても、仕様の判断が社長に残ると、伝言が一段増えるだけです
  • 進行表が更新されない:表を作っただけで、誰がいつ更新するかを決めないと、一か月で使われなくなります
  • 品質の基準を社長の感覚に置いたまま:「なんとなく違う」で差し戻すと、外注先も担当者も何を直せばよいか分かりません
  • 振り返りを飛ばす:見積もりと実際の差を見ないと、赤字の案件の型がそのまま次に使われます

J-Net21 のビジネスQ&A「どうすれば業務の属人化を防いで、技術・技能承継をスムーズに進めることができるでしょうか。」は、属人化を後回しにしたツケは顧客に向かってしまうことが少なくない、と指摘しています。受託の会社では、そのツケは納期の遅れや修正の往復として、真っ先にクライアントに見えます。「自分でやったほうが早い」と抱え直す前に、どこで止まっているかを確かめてください。

手放す前のチェックリスト

  • 直近の案件の、問い合わせから請求までの流れを書き出した
  • 流れの各段階に、いまの担当者の名前が入っている
  • 受ける案件と断る案件の基準が、数行で言葉になっている
  • 値引きの上限と支払条件が決まっている
  • 見積書と提案書に雛形がある
  • 進行表に「確認待ちの相手」の列があり、更新する人が決まっている
  • 納品してよい水準を、確認項目として書き出した
  • 外注先への依頼書に、取引条件を書く欄がある
  • 案件の終わりに振り返る場が予定に入っている

Tech Bloom の現場では

Tech Bloom は、聞く、整理する、動かす、仕組みにする、の順で進めます。最初の30分の面談では営業をせず、その場で引き取れる仕事を整理してお伝えします。1か月のトライアルでは、業務と課題の棚卸しをして、最初の90日の優先順位を決めます。

制作会社や代理店では、見積書と進行表の型づくりから入ることが多いです。そのうえで、定例の運営と議事録、期限の管理、外注先や専門家との調整、マニュアルの整備などを右腕として引き受けます。受ける案件と価格を決めるのは社長で、契約の締結や支払いの実行はしません。代表はWebマーケティングと営業支援の個人事業から独立した経歴を持ち、受託の段取りの詰まりどころを現場の感覚で見ています。

オンライン秘書やBPOとの違いは「オンライン秘書・BPOとの違い」に書きました。業種別の例は実例、プランの範囲は料金をご覧ください。

まとめ

  • 受託の会社では、案件ごとに範囲と価格を決める必要があり、営業から進行管理までが社長に集まる
  • 社長が持つのは受ける案件、価格、品質基準の判断。それを形にする作業は渡せる
  • 見積もり・提案書・進行表・振り返りの四つを型にすると、判断と作業が分かれる
  • 外注先との取引条件は書面の型にし、取適法やフリーランス法に当たるかは専門家と確認する
  • 渡すときは、判断の基準と進行表を更新する人を先に決める

よくある質問

Web制作会社の社長は、どの仕事から手放せばよいですか

まず見積書の作成と進行表の更新から始めるのがおすすめです。どちらも社長の判断を形にする作業なので、基準を言葉にすれば渡せます。受ける案件と価格の判断は、社長の手元に残します。

ディレクションを任せると、品質が落ちませんか

品質の基準が社長の感覚のままだと、落ちたように見えることがあります。納品してよい水準を確認項目として書き出し、最終の確認だけ社長が行う形にすると、品質を保ったまま手を離せます。

見積もりを社長以外が作っても大丈夫ですか

単価と範囲の判断を社長が持っていれば問題ありません。雛形と過去の似た案件をもとに担当者や右腕が組み立て、社長は単価と範囲だけを確認します。見積もりと実際の工数の差を振り返ると、雛形の精度が上がります。

フリーランスへの外注の契約も見てもらえますか

Tech Bloom は、依頼書や発注書の型づくりと、取引条件の整理をお手伝いします。取適法やフリーランス法に当たるかどうか、契約書の中身の最終判断は、弁護士など専門家と連携して確認します。契約の締結と支払いの実行は社長が行います。

社員数名の制作会社や、ひとり社長の代理店でも頼めますか

対象です。社長が営業とディレクションを一人で抱えている会社ほど、型を作る効果が出やすいと考えています。Tech Bloom はオンラインで全国に対応しています。

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見積もりも進行管理も自分で回していて、どこから手放せばよいか迷っている段階で構いません。その場で、右腕として引き取れる仕事を整理してお伝えします。お問い合わせからどうぞ。

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