士業・コンサル事務所の所長業務を減らす渡し方

この記事の要点

  • 士業・コンサルティング事務所では、専門の仕事より「専門外の所長業務」が所長の時間を奪います
  • 所長でなければできないのは、資格に基づく専門の判断と顧客との関係。営業資料、採用、請求、ツールは渡せます
  • 各士業法には有資格者以外が行えない業務の定めがあり、渡す仕事はその外側に限ります
  • 渡す相手は、事務所の事情を理解して「整理する側」に立てる人。事務員に指示する仕事を増やすのとは違います

税理士、社会保険労務士、行政書士、経営コンサルタント。専門性で顧客に選ばれる事務所ほど、所長には専門外の仕事が集まります。営業資料の更新、求人票の作成、請求と入金の管理、ツールの導入、提携先との調整。どれも所長にしかできない仕事ではないのに、所長がやっています。夜と週末が「専門外の所長業務」で埋まり、専門の判断が細切れになる。Tech Bloom が士業・コンサルティングの事務所で見る、いちばん多い状態です。

所長業務とは、事務所の所長が「自分でやっている」仕事のうち、資格や専門性がなくてもできるものを指します。専門の判断そのものではなく、その周りにある営業・採用・経理・IT・発信の仕事です。

この記事では、所長に集まる専門外の仕事を分類し、士業法の線をどこに引くか、渡し方の手順、分野別の渡し方、うまくいかないパターンを整理します。法律の解釈や個別の判断は、所属団体や専門家と連携して進めてください。

所長に集まる専門外の仕事

結論から言えば、所長の仕事は「専門の仕事」と「専門外の所長業務」に分かれ、後者の大半は方針と最終確認を所長が持てば渡せます。

分野所長がやりがちな仕事渡せるか
営業・提案サービス案内の更新、提案書の作成、紹介先への資料、料金表の整備渡せる(方針は所長、作成は任せる)
採用・人求人票、面接の設計、業務委託メンバーの契約と受け入れ、評価の型渡せる(採否は所長)
バックオフィス請求・入金・月次集計の流れ、規程やマニュアルの整備、外注先の管理渡せる
IT・ツール業務ツールの選定と導入、アカウントと権限の整備、データの移行渡せる
発信Webやページの更新、記事やセミナーの企画、紹介先への近況の連絡渡せる(内容の監修は所長)
専門の仕事顧客の相談への回答、申告や申請の判断、書類の作成と提出、顧客との関係所長・有資格者が行う

下の段だけが、所長でなければできない仕事です。上の段は、方針と最終確認を所長が持てば、作成と運営は渡せます。

渡せる仕事と渡せない仕事の線

士業には、資格を持たない者が業として行ってはならない業務が法律で定められています。外部の右腕に渡す仕事は、この線の外側に限ります。何条に何が書かれているかを確かめたうえで、渡す範囲を決めるのが順番です。

資格法律と条文条文に書かれていること(要旨)
弁護士弁護士法 第72条弁護士または弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことなどを業とすることができない
税理士税理士法 第2条・第52条税理士業務は税務代理、税務書類の作成、税務相談。税理士または税理士法人でない者は、別段の定めがある場合を除き、税理士業務を行ってはならない
社会保険労務士社会保険労務士法 第2条・第27条社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成や提出手続の代行などを業として行ってはならない
行政書士行政書士法 第19条行政書士または行政書士法人でない者は、報酬を得て、業として第1条の3に規定する業務を行うことができない

いずれの条文にも「他の法律に別段の定めがある場合」などの例外が書かれており、どの仕事が独占業務に当たるかの判断は、所属する団体や専門家に確認する領域です。外部の右腕の側から言えば、顧客の税務・労務・法務・許認可に関する判断、書類の作成や提出、顧客への専門的な回答には触れない、という線を最初に引きます。Tech Bloom の現場では、「顧客の書類に一切触れない」ことを前提に、事務所の営業・採用・経理・IT・発信を引き取ります。

なぜ渡せないままになるのか

理由は四つあります。

  • 事務員に頼むと、指示する仕事が増える。事務員は専門の補助や定型の事務が本業で、「営業資料の構成を考える」「求人票の狙いを決める」といった整理の仕事は頼みにくい
  • 専門外なので、誰に頼めばよいか分からない。営業も採用もITも、それぞれ別の専門家がいるように見えて、事務所の規模では一人ずつ頼めない
  • 所長の頭の中にしかない。事務所の方針や顧客の状況が所長の頭の中にあるため、説明する手間を考えると自分でやってしまう
  • 人を増やすこと自体が難しい。中小企業庁の2025年版中小企業白書では、中規模企業・小規模事業者ともに最も重視する経営課題として「人材確保」と回答する割合が最も高く、人材不足への対応は企業規模にかかわらず共通の課題だと述べられています。事務所も例外ではなく、「人を雇って任せる」が最初の選択肢になりにくい

四つ目が効いている事務所ほど、「採用せずに、整理する側を持つ」選択肢が現実的になります。比較は「右腕を「採用せずに持つ」」に書いています。

渡し方の手順

渡すときの考え方は、「分野ごとに専門家を探す」ではなく「整理する側に立てる一人に、まとめて渡す」です。営業資料も、求人票も、請求の流れも、ツールの整備も、所長の方針を聞いて形にする仕事という点では同じです。

  1. 所長の一週間の仕事を全部書き出す(専門の仕事も専門外も、時間の目安つきで)
  2. 「専門の判断」「所長が決めること」「任せること」「やめること」に分ける
  3. 任せることに、担当と期限をつける
  4. 顧客情報に触れる仕事とそうでない仕事を分け、触れる仕事は範囲と秘密保持を契約で取り決める
  5. 繰り返す仕事は型にする(請求の締め、受け入れ案内、資料の更新の周期)
  6. 月に一度、渡した仕事が回っているかを所長が確かめる

詳しい進め方は「社長業務の棚卸し」に書いています。事務所では、2 の「専門の判断」を先に切り出します。

分野別の渡し方

分野ごとに、所長が決めることと任せることを分けておくと、確認が一度で済みます。

分野所長が決めること任せること
営業資料・提案書誰に何を売るか、料金、強調したい実績構成、下書き、デザインの調整、紹介先ごとの差し替え
採用求める人物像、採否、条件求人票の作成、募集先の選定、面接の設計、受け入れの案内
請求・月次料金の決定、値上げの判断請求と入金の確認の流れ、月次集計の型、未入金の一覧化
ツール導入するかどうかの最終判断候補の比較、設定、アカウントと権限の整備、移行の段取り
発信何を伝えたいか、内容の監修記事やセミナーの企画、下書き、公開の段取り

採用については、中小企業庁の2025年版中小企業白書に、経営者が自ら採用活動を担っている事業者は「予定人数を採用」と回答した割合が高い、という分析があります。事務所でも、求める人物像と面接は所長が前に出て、求人票や募集先の選定、日程の調整や受け入れの案内は任せる、という分け方が合っています。

渡すときの注意

  • 顧客情報の扱い。士業は守秘義務を負う仕事です。外部に渡す仕事の範囲と、顧客情報に触れる範囲を分け、秘密保持を契約で取り決めます。「秘密保持のチェックリスト」を参照してください
  • 専門の判断は渡さない。渡すのは専門外の仕事です。申告、申請、顧客への専門的な回答は、所長と有資格者の仕事のままにします
  • 業法の確認。上の表のとおり、士業には業務の範囲に関する法律の決まりがあります。外部に渡す仕事がそれに触れないか、必要なら所属団体や専門家に確認します。資料や発信の名義と監修は所長です

うまくいかないパターン

Tech Bloom の現場で見る、渡したのに楽にならないパターンです。

  • 事務員に丸投げする。「営業資料を作っておいて」と言われても、事務員には狙いも構成も決められない。結局所長が直す
  • 専門の判断まで渡してしまう。「顧客からの質問に答えておいて」が業法の線を越える。渡すのは周辺の仕事だけ
  • 方針を出さずに任せる。求める人物像も、売りたいサービスも決めないまま作らせ、できたものに納得できない
  • 分野ごとに別の人に頼む。営業、採用、ITをそれぞれ別の会社に頼み、所長が三者の窓口になって調整の仕事が増える

共通しているのは、「整理する側」が誰もいないことです。所長の方針を聞いて形にし、担当と期限をつけて回す人がいれば、上のパターンはほぼ起きません。すでに外注先が増えて所長が窓口になっている場合は、「外注管理の方法」で窓口を一本にする手順を書いています。

渡す前のチェックリスト

  • 所長の一週間の仕事を書き出し、専門の仕事と専門外の仕事を分けた
  • 専門の判断(申告・申請・書類作成・顧客への専門的な回答)は所長・有資格者に残した
  • 渡す仕事が士業法の独占業務に触れないか、必要なら所属団体や専門家に確認した
  • 顧客情報に触れる仕事と触れない仕事を分けた
  • 秘密保持を契約の条項で取り決めた
  • 分野ごとに、所長が決めることと任せることを決めた
  • 任せる仕事に担当と期限をつけた
  • 月に一度、渡した仕事が回っているかを確かめる時間を決めた

Tech Bloom の現場では

Tech Bloom は、専門サービス・士業、コンサルティングの事務所を含む幅広い業種で、社長・所長の右腕として専門外の仕事を引き受けています。営業資料や提案書、求人票と受け入れ、請求・入金・月次集計の仕組み化、ツールの選定と導入、Webや記事の企画を、所長の方針を聞いて形にします。専門の判断と顧客との関係は所長の仕事のままです。

進め方は「聞く → 整理する → 動かす → 仕組みにする」の順です。トライアルの1か月で業務と課題の棚卸しをし、最初の90日の優先順位と本契約の範囲を提案します。プランは料金にまとめています。

士業・コンサルティングは、「業種が変わっても、社長の困りごとは似ている」ことを最もよく表す分野だと感じています。業種別の課題と支援の例は実例に、ご相談いただける業種は事業概要に、引き受ける範囲はサービスの案内にまとめています。近い構造を持つ業種の例として「Web制作・広告会社の営業と進行管理」もあります。

まとめ

  • 所長の時間を奪うのは、専門の仕事ではなく専門外の所長業務
  • 所長でなければできないのは、資格に基づく専門の判断と顧客との関係。それ以外は渡せる
  • 士業法には有資格者以外が行えない業務の定めがある。渡す仕事はその外側に限る
  • 分野ごとに探すのではなく、整理する側に立てる一人にまとめて渡す
  • 顧客情報の扱いと業法は、渡す前に確かめる

よくある質問

事務員がいるのに、外部に頼む意味はありますか

事務員の仕事は専門の補助と定型の事務です。営業資料の構成や採用の設計、仕組みづくりといった「整理する仕事」は、役割が違います。事務員に指示する仕事を増やすのではなく、整理する側を置くのが目的です。

顧客情報に触れずに任せられますか

任せる仕事の多くは、営業資料や採用、仕組み化など、顧客情報に触れずにできるものです。触れる必要がある場合は、範囲を限定し、秘密保持を契約で取り決めます。顧客の書類の作成や提出には触れません。

士業法に触れる心配はありませんか

外部の右腕が引き受けるのは、事務所の営業・採用・経理・IT・発信といった専門外の仕事です。税務代理や申請書の作成など、各士業法が有資格者に限っている業務には触れません。個別の判断が必要な場合は、所属団体や専門家に確認したうえで範囲を決めます。

有資格者を一人雇うのと、何が違いますか

有資格者を雇えば専門の仕事は分担できますが、営業資料や採用や請求の仕組みは、その人の仕事にもなりにくいものです。整理する側は、専門外の仕事をまとめて引き取ります。両方が必要な事務所も多く、整理する側を先に置くほうが、有資格者の採用そのものも進みやすくなります。

コンサルティング会社でも同じですか

はい。コンサルタント自身が営業と納品を抱え、資料や請求や採用が後回しになる構造は同じです。士業法の線がない分、渡せる範囲は広くなります。「外部COO(COO代行)とは」で、引き受ける仕事の範囲を説明しています。

参考・出典

  1. 弁護士法(e-Gov 法令検索。確認日 2026-09-25)
  2. 税理士法(e-Gov 法令検索。確認日 2026-09-25)
  3. 社会保険労務士法(e-Gov 法令検索。確認日 2026-09-25)
  4. 行政書士法(e-Gov 法令検索。確認日 2026-09-25)
  5. 2025年版 中小企業白書 第1部第1章第3節 雇用環境・労働移動(中小企業庁。確認日 2026-09-25)
  6. 2025年版 中小企業白書 第2部第1章第4節 人材戦略(中小企業庁。確認日 2026-09-25)

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