この記事の要点
- 中小企業の採用が進まない原因の多くは、求人票から入社準備までの段取りが社長に集まることです
- 社長が必ずやるのは、求める人物像の決定、最終面接、採否の判断の三つです
- 求人票の下書き、日程調整、合否連絡の段取り、入社準備の確認は任せられます
- 労働条件の明示など法令に関わる点は、公的な案内で確かめ、判断は社労士など専門家と連携します
社員が数名から数十名の会社では人事の担当者がいないことが多く、採用の実務がそのまま社長の仕事になります。求人票を書き、ハローワークや求人媒体に出し、応募に返事をし、面接の日程を合わせ、合否を伝え、入社の日の準備をする。本業の合間に回すので返事が遅れ、候補者が他社に決まり、「採用が進まない」になります。中小企業庁の2025年版 中小企業白書(第1部第1章第3節)でも、中規模企業・小規模事業者ともに、最も重視する経営課題として「人材確保」と回答する割合が最も高くなっています。
採用の段取りとは、求める人物像が決まってから、入社した人が働き始めるまでの書類・連絡・日程・準備の仕事のことです。判断そのものではなく、判断を支えて相手に届ける仕事です。
この記事では、求人から入社準備までの工程表、社長が手放さない三つの仕事、法令に関わる点の扱い方、入社準備のチェックリストを整理します。幹部を採用するか外部に置くかの比較は「右腕を採用せずに持つ」で扱ったので、ここでは社員の採用全般の分け方に絞ります。
採用の実務が社長に集まる三つの理由
採用が社長に集まるのは、社長が一番熱心だからではなく、採用の工程に「担当」と「型」がないからです。
一つ目は、採用が年に数回しか起きないこと。前回の求人票や面接の質問が残っておらず、社長が一から作り直します。二つ目は、判断と作業が混ざっていること。誰を採るかを決められるのは社長だけですが、それに付いてくる連絡や日程調整まで社長が握ったままになります。三つ目は、社外の人とのやり取りだということ。応募者への返事を社員に任せてよいか分からず、社長の受信箱に集まります。
Tech Bloom の現場でよく見るのは、応募への返事が社長の出張と重なって数日空き、その間に候補者が辞退する、入社が決まってもパソコンやアカウントの用意が前日に発覚する、といった流れです。どちらも判断ではなく段取りの問題です。業種の例として、建設・不動産の社長に採用の段取りまで集まる形を「建設・不動産の社長の書類と調整」で取り上げています。
採用が社長の時間をどれだけ取っているかは、「社長業務の棚卸し」や「社長の時間を1週間記録する」の方法で見えてきます。
求人から入社準備まで──採用の工程表
採用を8つの工程に分けると、社長がやることと任せられることが分かれます。
| 工程 | 中身 | 社長がやること | 任せられること |
|---|---|---|---|
| 1. 人物像を決める | 任せる仕事、必要な経験、働き方 | 何を任せ、誰を採るかを決める | 聞き取りと文書化 |
| 2. 求人票をつくる | 仕事の内容、就業時間、休日、賃金、就業場所 | 条件の最終確認 | 下書き、前回の求人票との違いの確認 |
| 3. 募集を出す | ハローワーク、求人媒体、自社サイト、紹介 | 使う経路と予算の決定 | 登録の手続き、掲載内容と期限の管理 |
| 4. 応募者対応 | 受付、書類の確認、返事 | 書類選考の基準を決める | 受付の返信、書類の整理、基準に沿った仕分け |
| 5. 面接の日程 | 候補日の提示、会場の用意 | 面接の時間を空ける | 日程の調整、案内の送付 |
| 6. 面接 | 一次面接、最終面接 | 最終面接に出る | 質問項目と評価表の用意、記録 |
| 7. 採否と連絡 | 合否の判断、結果の連絡、条件の提示 | 採否の判断 | 連絡文の下書き、期日の管理、媒体への連絡 |
| 8. 入社準備 | 書類、備品、アカウント、初日の予定 | 初日に会う時間をつくる | チェックリストでの準備と確認 |
社長の列に残るのは、決めることと会うことだけです。考え方は「権限委譲の進め方」と同じで、判断は社長に残し、判断までの準備と判断のあとの実行を渡します。
社長が必ずやる三つ──人物像・最終面接・採否
人物像・最終面接・採否の三つを人に任せると、採った人と社長の期待がずれ、入社後に社長が仕事を引き戻すことになります。
中小企業庁の2025年版 中小企業白書(第2部第1章第4節 人材戦略)は、従業員数30名超の事業者に焦点を当てた分析で、経営者が自ら採用活動を担っている事業者は「予定人数を採用」と回答した割合が高いとし、組織の雰囲気や熱意を直接伝えられる可能性に触れています。Tech Bloom はこれを、社長の時間を「伝える場面」と「決める場面」に使うべきだ、と読んでいます。
人物像は、選考の基準でもあります。厚生労働省の公正な採用選考の基本は、面接を行う場合に、職務遂行のために必要となる適性・能力を評価する観点から、あらかじめ質問項目や評価基準を決めておくよう示しています。社長が決めた人物像を右腕が質問と評価表に落とせば、一次面接を社員に任せても基準がぶれにくくなります。
| 社長の仕事 | 社長が決めること | 右腕がそろえる材料 |
|---|---|---|
| 人物像の決定 | 任せる仕事、外せない経験、譲れる条件 | 今の業務の棚卸し、前回の採用で合わなかった点 |
| 最終面接 | 会社として伝えたいこと、確かめたいこと | 一次面接の記録、質問項目と評価表 |
| 採否の判断 | 採るか、採らないか、条件をどうするか | 候補者ごとの評価の比較、条件の案、連絡の期日 |
法令に関わる点は、公的な案内で確かめて専門家と連携する
採用には、募集の段階から労働条件の明示などのルールがあります。Tech Bloom は確認できた公的ページの範囲だけを社長と共有し、判断は社会保険労務士など専門家と連携して進めます。
厚生労働省の募集時等に明示すべき事項の追加に関するページによると、求人企業が労働者の募集を行う場合は労働条件の明示が必要で、2024年(令和6年)4月1日からは、従事すべき業務の変更の範囲、就業の場所の変更の範囲、有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項も明示が必要になりました。古い求人票の使い回しでは、この項目が抜けがちです。
ハローワークの求人申込み、採用・選考に当たっての留意事項には、求人票に記載された労働条件はそのまま採用後の労働条件となることが期待されていること、採用するときは労働契約の締結に際して労働条件を書面などで明示しなければならないこと(労働基準法第15条)が書かれています。選考結果の通知日数を守ること、不採用者の応募書類を速やかに返却することも、お願いとして挙げられています。
| 確認する点 | 公的な案内に書かれていること | 右腕がやること | 判断する人 |
|---|---|---|---|
| 募集時の明示 | 2024年4月から明示事項が追加 | 求人票の項目の点検、抜けの洗い出し | 社長と社労士 |
| 求人票と実際の条件 | 求人票の条件は採用後の条件となることが期待される | 面接で示す条件と求人票の突き合わせ | 社長 |
| 採用時の明示 | 労働条件を書面などで明示 | 労働条件通知書を用意する段取り | 社長と社労士 |
| 公正な採用選考 | 適性・能力と関係のない事項を把握しない | 質問項目の点検、面接官への共有 | 社長 |
入社準備と受け入れ──決まったあとで詰まらないために
採用は内定の連絡で終わりません。入社の日に道具とアカウントがそろい、誰が何を教えるかが決まっているかで、立ち上がりが変わります。チェックリストにして担当を決めれば、社長が覚えておく必要はありません。
白書の同じ節では、人材育成の取組を増やしていない事業者の問題点として「育成に充てる時間的余裕がない」「指導する人材が足りない」の回答割合が高いとされています。受け入れ準備を最初から工程表に入れるのは、これを防ぐためです。
締めくくりの連絡も忘れがちです。ハローワークの求人申込み手続きの流れは、採用・不採用を決定したら結果に関わらず速やかに応募者とハローワークに連絡すること、ハローワーク以外からの応募で採用が決まった場合も求人を取り消す必要があることを案内しています。
入社準備のチェックリストです。
- 労働条件通知書など、入社前に渡す書類を社労士と確認した
- パソコン、机、名刺、業務システムのアカウントなど、初日に要る物をそろえた
- 初日から最初の1週間の予定表を作った
- 仕事を教える担当者を決め、その人の時間を空けた
- 社長が初日に話す時間を予定に入れた
- 採用が決まった求人を、ハローワークと各媒体で止める連絡をした
- 不採用の方への連絡と、応募書類の返却・廃棄を済ませた
よくある失敗
| 失敗 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 人物像を決めずに求人を出す | 応募は来るが、面接のたびに基準が変わる | 工程1で任せる仕事と外せない経験を文書にする |
| 返事を社長だけが出す | 社長が忙しい週に返事が止まり、辞退が出る | 受付の返信と日程調整は担当を決めて渡す |
| 求人票を使い回す | 明示事項の抜けや、実際の条件とのずれが残る | 募集のたびに項目を点検し、迷う点は社労士に確認 |
| 一次面接を任せたが基準を渡さない | 社長が最終面接で一からやり直す | 質問項目と評価表をそろえて渡す |
| 社長が採用から完全に抜ける | 会社の考えや熱意が候補者に伝わりにくい | 人物像・最終面接・採否は社長に残す |
失敗の多くは、採用のやり方が社長の頭の中にしかないことから来ます。ほどく手順は「属人化をほどく」に書きました。応募管理のツールを入れる場合も、先に担当と工程を決める順番は「中小企業のIT化が進まない理由」と同じです。
Tech Bloom の現場では
Tech Bloom は採用を代行する事業者ではありません。外部COO(COO代行・社外COOとも呼ばれます)として、社長の右腕の立場で、採用の段取りと社内の受け入れ準備を回します。進め方は次の順番です。
- 聞く:今回の採用で何を任せたいのか、これまでの採用で困ったことを社長から聞きます
- 整理する:人物像、工程表、社長の出番を1枚にまとめ、求人票や質問項目、評価表を下書きします
- 動かす:日程調整、連絡文の下書き、期日の管理、入社準備のチェックを回します。応募者とのやり取りを誰の名前で行うかは、最初に社長と決めます
- 仕組みにする:求人票、質問項目、評価表、入社準備のチェックリストを、次の採用で使える形で残します
採否や条件を決めるのは社長で、労働条件や雇用契約の判断は社労士など専門家と連携します。応募者の個人情報を含む書類は、契約書の秘密保持の条項のもとで会社ごとに分けて管理します。COOの仕事の中で採用がどこに入るかは「COOの役割とは」、支援の範囲はサービスの案内、プランは料金をご覧ください。
まとめ
- 採用が社長に集まるのは工程に担当と型がないから。止まる原因は判断より段取り
- 求人から入社準備までを8つの工程に分け、社長の列には「決める」と「会う」だけを残す
- 社長が必ずやるのは、求める人物像の決定、最終面接、採否の判断の三つ
- 労働条件の明示などは公的な案内で確かめ、判断は社労士など専門家と連携する
- 入社準備と締めくくりの連絡まで工程表に入れ、チェックリストで回す
よくある質問
中小企業で採用が進まないのはなぜですか
人手不足に加えて、社内の段取りで止まっていることが多いと Tech Bloom は見ています。返事の遅れで候補者が離れる、求人票が古いまま、といった状態です。まず工程表を作り、止まっている工程を確かめるのが近道です。
採用業務を外注するとき、何を社内に残すべきですか
人物像の決定、最終面接、採否の判断は社長に残すことを勧めます。求人票の下書き、日程調整、連絡、入社準備の確認は社外にも任せやすい仕事です。応募者とのやり取りを誰の名前で行うかも合わせて決めてください。
社長が忙しくて面接の時間が取れません
一次面接を社員に任せ、社長は最終面接だけに出る形にできます。前提は、質問項目と評価表を先にそろえ、一次面接の記録を社長が読める形にしておくことです。面接の枠を先に社長の予定へ確保しておくと、日程調整も早くなります。
求人票の労働条件はあとから変えられますか
ハローワークの案内では、求人票に記載された労働条件はそのまま採用後の労働条件となることが期待されており、やむを得ず変更する場合は労働契約の締結前に変更内容を明示することが必要とされています。個別の変更の可否は、社労士など専門家に確認してください。
Tech Bloom に採用を丸ごと任せられますか
Tech Bloom は採用を代行する事業者ではなく、採否の判断や条件の決定は引き受けません。右腕として段取りと受け入れ準備を回し、次の採用で使える型を残します。求人媒体や人材紹介を使うかどうかは、社長の判断に沿って進めます。
参考・出典
- 2025年版 中小企業白書 第1部第1章第3節 雇用環境・労働移動(中小企業庁。確認日 2026-09-26)
- 2025年版 中小企業白書 第2部第1章第4節 人材戦略(中小企業庁。確認日 2026-09-26)
- 令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます(厚生労働省。確認日 2026-09-26)
- 公正な採用選考の基本(厚生労働省。確認日 2026-09-26)
- 求人申込み手続きの流れ(厚生労働省 ハローワークインターネットサービス。確認日 2026-09-26)
- 求人申込み、採用・選考に当たっての留意事項(厚生労働省 ハローワークインターネットサービス。確認日 2026-09-26)
まずは30分、状況を聞かせてください
採用のどこで止まっているのか分からない段階でも構いません。その場で、右腕として引き取れる仕事を整理してお伝えします。お問い合わせからどうぞ。


